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2025年05月25日(日曜日)
住職が、縁のある方々と「人々の交流」をテーマに対談する企画記事。第3回目「半農半鮨 まこと屋」店主・小堀真市さんとの対談。
後編は、住職とマスターという異なる世界に身を置くお二人がそれぞれの立場から語り合う形で進んでいきました。
寺子屋の未来、自然栽培の実践、食と命、さらには社会や教育への問題意識まで、静かな対談の奥に深い熱を感じる内容となっています。
後編をお届けします。(前編はこちら)
***
<小堀マスターから住職へ>
1)自分の流儀で、そっと人と向き合う 〜お寺と鮨屋の共通点〜
2)語り合いながら育てていく、日本への思いと学びのかたち
3)参拝だけじゃない、人がつながる場としてのお寺のこれから
4)マルシェも音楽も、お寺がひらく小さなにぎわいの時間
5)昔ながらの寺子屋のかたちを、今の子どもたちに再び
6)一言の出会いからすべてが変わった、鮨と自然栽培の物語
7)本とヌカとイトミミズが教えてくれた、自然のすごさ
8)未来に食をつなぐ 〜種と土、そして“その時”に備えて〜
9)目を醒ますということ 〜食、教育、そして未来の子どもたちへ〜
<住職 笠島崇信>
来迎寺住職。日本スリランカ仏教センター蘭華寺理事長。
<まこと屋店主(マスター) 小堀真市>
「半農半鮨 まこと屋」店主。自然栽培お米の生産。各種活動やセミナー主催。
【住職】
マスターも、お鮨屋さんという場所で本当にいろんな人と接していますよね。
私もお寺の職業柄、いろんな方と関わることが多いので共通点を感じています。
【マスター】
そうですね。私は貝塚に親戚がいるんですが、その家が来迎寺さんの檀家だったりで。
これも不思議な縁だなと思います。
【住職】
縁って面白いですね。日々、いろんな人と出会う中で、価値観や考え方に影響を受けることがあります。マスターは自分のスタイルに信念持っている印象がありますね。
お客さんに対しても、過剰に受け身にならない。「ここに合う人に来てもらえればいい」というスタンスがあるのかなと。
【マスター】
そこまで強いこだわりがあるわけじゃないですけど(笑)。
ただ、自分のスタイルでやっていきたいっていう気持ちはありますね。
【住職】
今の世の中で、自分の信念を持って生きるって結構難しいように思います。周りに流されてしまう場面がどうしてもありますよね。
【マスター】
確かに、信念っていうと大げさかもしれないけど、要は自分が納得できる形でやっていくことが大切なのではないでしょうか。
住職は、そういう意味で何か一貫したものを持ってるように感じますけど、ご自身ではどう思われますか?
【住職】
よく言われるのですが、私は皆さんが思うほど何か強い信念みたいなものを持ってお寺をやっているわけではないんです。良くも悪くも自然体なのかもしれません。
あえて言うなら、その時々の「縁」を大切にしているというのはあるかもしれません。
人の話を聞いたりとか、そういう部分は大事にしています。
【マスター】
たしかに、住職はあまり自分から前に出るタイプではないですよね。落ち着いていて話をじっくり聞いてくれる印象があります。
【住職】
タイプ的に自分からしゃべるのがあまり得意ではないので、自然とそうなっているという感じでしょうか。
でも、マスターのように店を構えて自分のスタイルでやっている人のブレない強さには魅力を感じます。
【マスター】
自分で店をやっていると、ある程度の決断や責任は必要ですからね。でも、住職も同じような感覚はあるんじゃないですか? お寺もある意味、自営みたいなものですよね。
【住職】
そうです。ジャンルとしてはお寺も自営業になります。先ほどマスターのお店を開くまでの勤務経験のお話をお聞きしましたが、私も勤め人は多分向いていないと思います。組織に所属するよりは単独行動したいんです。
大学生時代には寮生活も経験しましたが、そういう生活環境はあまり得意ではありませんでしたね。
【マスター】
わかります。私もそういうのはちょっと苦手ですね。
【住職】
やっぱり、自分で何かをやっていきたいという気持ちが強いのかもしれません。お寺の仕事も、個人事業みたいなものなのでそれなりに自由度はありますし。
そういう意味では、マスターの仕事と近い部分があるのかもしれませんね。
【マスター】
確かに。どちらの仕事も人との関わりが中心にありますね。
【住職】
まこと屋さんで開催されている勉強会には私もよく参加させていただいています。年配の方から若い人まで多くの世代の方が参加されていますよね。
子ども世代も参加できますか?
【マスター】
もちろんですとも。子どもたちにとっても日本の歴史をきちんと学び直す機会って、今の時代すごく貴重だから。子どもや若い人たちがそういう学びを通じて、自然と愛国心も育つと思っていて。
【住職】
いろいろな場で若い人たちの意見を見聞きすることがあるのですが、若い人でも案外愛国心を持っていると感じることもあります。
どちらかというと、一番そいうのが足りていないのはむしろ大人のほうだと感じていまして。特に私たちの親世代、いわゆる団塊の世代あたりは反日教育をもろに受けてきた世代ですから。
【マスター】
たしかに、戦後教育の影響は大きいですよね。学校で「日本は戦争で悪いことをした」って習ってきたから、なんとなくそういう感覚になってしまう。
そういう一面的な学びではなくて、本当はもっと多面的に学ぶべきなんですよね。それを正していきたいという思いが、勉強会開催の原点でもあります。
【住職】
マスターとはそういう部分でも共感することが多くて。日本という国に対する思いだったり、歴史に対する認識だったり。マスターはそういう思いを行動に移されていて本当に尊敬します。
【マスター】
いやいや、住職も十分行動してると思いますよ。私よりよっぽど発信力あるし。
【住職】
恐れ入ります。こうやって語り合える方がいるのは、本当にありがたいことです。
【マスター】
そういえば住職、将来的にお寺で寺子屋をやりたいっていう話を以前していましたよね?
あれ、すごくいいと思うんです。
【住職】
完全に昔の寺子屋の形にするのは難しいですけど、子どもたちが集える「場」としてのお寺っていうのがあってもいいかなと思っています。
ただ、お寺だけで全部運営するのは現実的には厳しいので、外部のサポーターとか、同じ思いを持つ方の力も借りながらやっていけたらいいなと。
【マスター】
いいねぇ、それ。道場の子どもたちや近所の子を連れてきて来迎寺で1日過ごすとか、夏休みに企画できたら楽しそうだよね。
【住職】
香取道場の三﨑会長ともそんな話をいつもしていまして。お寺で一日過ごす体験をして、学校では教えないようなことを学んでもらったりできたらと思っています。
または、学びとか難しいことしなくても、単純に自然の中にある来迎寺で過ごしてもらう。それだけでも充分意味があると思います。
【マスター】
それ、絶対いいと思う。変に都会のキャンプ場に行くよりも、来迎寺のあの自然の中の空気感って、子どもにとってもすごく良い影響があるはず。
【住職】
そう思います。ありがたいことに来迎寺の自然環境はすごく恵まれているので、なんらかの形で活用していければと思います。
【マスター】
ところで、「座禅を体験したい」って問い合わせとか来ません?
【住職】
来ます来ます。電話で問い合わせで「座禅やってますか?」ってよく聞かれるんですけど、うちは浄土宗なので座禅はやらないんですよね。教えが違いますので。たぶん日本のお寺=座禅というイメージがあるんでしょうね。
【マスター】
ああ、座禅っていうと曹洞宗とか臨済宗とかでしたっけ?
【住職】
そうですね。坐禅をやるのは主にそのあたりの宗派です。でも、その宗派でもすべてのお寺で体験ができるわけではないみたいなので。
【マスター】
そうなんですね。でも、座禅みたいに「お寺で何かしたい」って興味を持つ人が来るきっかけがあるのは大事ですね。
【住職】
そうですね。行事でいえば、例えば大晦日の「除夜の鐘」は誰でも参加しやすいと思います。
最近ではいろんなお寺で地域に開かれた行事をやっていますし、そういうところから参加してみて少しずつお寺や仏教などに関心を持ってくれたらいいですよね。
【マスター】
除夜の鐘って「はしご」とかしてもいいもんなんですかね? この前、来迎寺で鐘ついて帰る途中に他のお寺の鐘の音が聞こえてきて「こっちも行っていいのかな?」って思ったんですけど。
【住職】
全然いいと思いますよ。場所によっては、大晦日にいくつかのお寺を巡って「鐘つきスタンプラリー」みたいなことをやっているところもあるって聞きますし。
【マスター】
それ、いいですね。ちょっと遊び感覚になっちゃうかもしれないけど入り口としてはいいかも。そこから興味を持って、仏教とかお寺に親しみを感じてくれたらすごく意味があるんじゃないかな。
【住職】
はい、本当にそう思います。お寺って敷居が高いって思われがちですけど、最初のきっかけはなんでもいいんですよね。「遊びでもいいから行ってみる」。そこから何かが始まることもありますから。
【マスター】
来迎寺では本堂でコンサートやったり、境内でマルシェみたいなこともやっていますよね。あれ、すごく面白いですね。
【住職】
お寺でマルシェって言うとちょっと気取ってる感じですけど(笑)、誰でもが集まって楽しめるイベントっていう感じですね。昨年から始めたんですけど。
【マスター】
あれはどういう経緯で始まったんですか?「お寺でやらせてください」みたいな感じで声がかかったの?
【住職】
はい、そんな感じです。もともと主催の人たちから「こういうイベントを来迎寺さんでできたら最高ですね。自分たちが企画運営するのでやりませんか?」って声をかけていただいて。ちょうど自分の中にも、お寺で何かイベントやれたらいいなって思いがあったので、じゃあ一緒にやりましょうって形で。
【マスター】
なるほどね。お寺だけで全部企画するのは大変ですもんね。
【住職】
そうなんです。だから企画運営は主催の方々が主導してくれて、お寺は場所を提供したり内容の相談を受けたりって感じで。一人ではできないことも、こうして協力関係があると実現できるんですよね。今年も開催予定です。
お寺が参拝するだけじゃなく、人と人がつながれる場所になればいいなって思っています。
【マスター】
うんうん、すごく共感しますね。お寺って、もっと地域と交われる場になれると思うし。今の時代に合った「人が集まるお寺」の形を住職みたいに柔軟にやる人がもっと増えたら面白くなると思いますよ。
マスターが生産している「どぶろく」。ノンアルのどぶろくもあります。
【住職】
昔は夏休みに子どもたちが来迎寺に寝泊まりして過ごす行事があったそうなんです。住職の話を聞いたり、紙芝居を見たり、肝試しなんかもあったそうで。
【マスター】
お寺で肝試し、いいね(笑)。ちょっとした合宿みたいなのもできそうだね。
【住職】
本堂は風が抜けて気持ちいいですから。さすがに最近はちょっと暑すぎですが、やれないことはないと思います。
あっ、マスターも講義しにきてください(笑)。
【マスター】
そうだね(笑)。あと、あそこで武道の稽古なんかができたら最高だと思いますね。
【住職】
ああ、いいですね。マスターは剣道やられているんですよね。
稽古といえば、昔は来迎寺の本堂で柔道をやっていたそうですよ。
【マスター】
本堂の畳の上で?柔道は投げとかあるから畳に負荷がかかると思うけど、できなくはないのかな。
【住職】
今はちょっとガタが来てますけど(笑)。
そう考えると、昔のお寺って本当に地域の拠点だったんだなと思いますよね。人が集まって、遊んで、学んで、時には鍛えて。壮大な意義を感じます。
【マスター】
うんうん。そういう「場所」としてのお寺って、これからも再生できる気がする。寺子屋も、道場も、座禅や除夜の鐘も。全部つながっているんですよね。
【住職】
マスターは、これまでどんな思いでお店をやってこられたんですか?
まこと屋を出されてからすぐ今のスタイルになったわけじゃないですよね。
【マスター】
うちの店ね…最初はホントひどかったんですよ。今の形になる前の最初の店の頃なんて、冷凍や養殖ばっかりでしたから。天然物出しても、この小見川じゃわかる人いないだろうって出していたんです。良いもの出しても高くなっちゃうし、あんまり意味ないよなって。
【住職】
へぇ、今のお店からは意外です。
【マスター】
一応、イワシとかアジとかは銚子から仕入れていたのでそれはそれで良いネタだったんですけど、赤貝とかは冷凍のもの、コハダなんかも真空パックのやつを出していたんです。
そしたらね、ある日50代くらいの男性がカウンターに座って、「本日の仕入れ」の札を見て「銚子のイワシか、いいね」って言って出したんです。それで、赤貝も握って出したら、「なんだこれ」って言われて。
【住職】
わかる方がいたんですね。
【マスター】
そう。「イワシはいいのに、なんでこんな冷凍の赤貝出すの?」って言われて。「あ、わかるんだ…」って思ってね。そのお客さんに「もっと良いもの出さないとダメだ」って叱られて。
ちょっと癪にさわったけど、見返してやろうって思ったんです。
そこから少しずつ変えていきました。カンパチやハマチなどの白身なども、養殖じゃなくて天然物に。あ、さっき出した鯛も銚子の天然物ですよ。
【住職】
なるほど、そのお客さんの一言がきっかけだったんですね。
【マスター】
天然物とか最初は意識していなかったし、味の違いも正直そこまで分かっていなかった。
でもね、全然違うんですよ、養殖と天然って。
脂の乗り方は確かに養殖の方がいいんだけど、それって不自然な太り方なんですよ。狭い網の中で泳げなくて、ただエサを与えられて育つから。
【住職】
なるほど、人工的に太らされているから脂がのっているってだけなんですね。
【マスター】
そう。しかもその脂が臭いんですよ、エサのせいで。
天然物は自然界で必死に泳ぎまわって、旬のときにだけ太る。で、産卵終わったら痩せて美味しくなくなる。そういう自然界の見極めが大事なんですよ。
そういうことを一つずつ知っていく中で、だんだんと店の方向が変わっていったんです。
【住職】
ある種の哲学を感じます。そいうのを知る中で、仕事への信念が一段と増していくんですね。
【マスター】
お客さんが初めて食べるネタを出すと、「この店面白いな。他では食べられないな。」って思ってくれるんです。そういうお客さんが残ってくれて、今の店につながっているんですよ。
【住職】
お店を建て替えてから、さらにグレードアップされたんですよね。
【マスター】
はい。不思議ですが前の店に来ていたお客さんは、ほとんど来なくなりました。価値観が合わなくなったんでしょうかね。
実はね、先ほどカウンターにいたお客さん(※当対談中にカウンターで食事をされていたお客さん)が先ほどの話のきっかけをくれた方なんです。その方は今もずっと通ってくれています。
【住職】
えっ、そうだったんですか! すごいタイミング!
【マスター】
ええ。実はさらに、その方が「農家なら無農薬でやったら?」って言って、私が自然栽培に興味を持つきっかけをくれた方でもあるんですよ。
【住職】
えぇ、それはすごい! 本当にすごい方だなぁ(感嘆)。
【マスター】
最初は「そんなの無理に決まってる」って内心思いましたよ(笑)。
鮨屋やりながら無農薬米なんて、手間かかるし絶対両立できないだろって。でも、その話は頭の片隅に残っていたんです。
【住職】
結果として、今では実現されましたもんね。それにしてもすごいご縁があったもんです。
【マスター】
そう。人生変えるきっかけって、どこにあるかわからない。
私の趣味は昼寝(笑)と読書なんだけど、その読書の中でリンゴ農家の木村さんに出会って、それがまたひとつの転機となって、自然とか命の本質みたいなところに考えが行くようになったんです。
【住職】
頭の片隅に無農薬があった中で木村さんの本に出会い、いよいよマスター自身の実践の準備が整ったわけですね。
【マスター】
そうなんです。「無農薬でやったら?」って言われたあの言葉が、ストンと腑に落ちた瞬間があって。「よしやってやろう!」と、本気でそう思ったんです。
【住職】
すごいなぁ。すべてが繋がったんですね。
【マスター】
失敗したらどうしようとか、バカにされたらどうしようなんて全然思わなかった。ただ「やる」って決めただけ。
それで地元のショッピングセンターの本屋に行って何か参考になる本ないか探したら、平積みの本が目に飛び込んできたんです。おじいさんがドンッと表紙に出ている『究極の田んぼ』って本。
(※『究極の田んぼ―耕さず肥料も農薬も使わない農業』 岩澤信夫 著 日本経済新聞出版)
【住職】
表紙からして気になりますね(笑)。
【マスター】
それがね、香取とか成田の話でまさに地元のことが書いてある。「耕さない田んぼ」がいいんだと。
最初にやることは、まずヌカを撒いて水を張りなさいって書いてあって、すぐに「これだ!」って感じて買って帰って読みまくりました。
【住職】
直観的にこれだって分かったんですね。その後、すぐ実践されたんですね。
【マスター】
ヌカは貝塚の親戚がやっているコイン精米所からもらいました。いや、正確には買わされたかな(笑)。で、田んぼ一枚に100キロのヌカを撒いたんですよ、ひとりで。
【住職】
時期的にはいつ頃ですか?
【マスター】
秋です。普通は稲刈りが終わって他の田んぼは水が引けない時期なんですけど、うちの田んぼは天然水が引ける場所だったから水を張れたんですよ。
そしたらね…4日目に異変が起きた。
【住職】
えっ、何が?
【マスター】
赤い塊が動いてたんです。大量発生したイトミミズだったの。撒いたヌカを口にくわえて、糞をして、それが堆積して。草を覆ってしまうほどにね。つまり、それが自然の肥料になっていたんです。
だから自然界に肥料なんていらないんです。自然界が全部整えてくれるんだ。
【住職】
必要なものはすべて自然界に用意されていたんですね。
【マスター】
そう。それを見て、「すげぇな」って心から思いました。百姓なんてやりたくなかったのに、「よーしやってやるよ!」って燃えてきましたよ。親にも親戚にも「無理だ」って言われたけどね。
【住職】
むしろその反応で火がついたんですね(笑)。
【マスター】
とにかく本を頼りに半年間やってみたんです。もちろん商売だから、作れるだけじゃなくて味が重要。安心安全だけじゃ売れない。だから、炊飯ジャーで炊いてみて台所に立ち込める香りを嗅いだ瞬間、「成功したな」って確信したんですよ。
【住職】
ご飯の香りって、モノによって全然違うと言いますからね。
【マスター】
そう。特に今は温暖化のせいで米の味が落ちているんです。昼だけじゃなくて夜も暑いから、稲がせっかく日中に蓄えたデンプンを夜に消費しちゃうの。でも昔は夜が冷えたから味が良かった。
私の米は味がガツンと戻った。昔の米の味にね。
【住職】
いろいろな導きが重なって準備が整い、そしてすべてが噛み合ったんですね。田んぼも、そしてマスターも。
【マスター】
はい。あとは「やるか、やらないか」だけだったんだよね。自分が動き出すのを自然が待っていてくれた感じがした。
【住職】
その味を知ったら周りの人も真似したくなりそうですけど?
【マスター】
それが不思議なもんでね、誰もやらないんですよ。話を聞きに来る人もいないし、実践する人もゼロ。自然と向き合うって、言うのは簡単でもやるのは想像以上に難しいんですよ。だから余計にやりがいがあるんです。
【住職】
今の農業や食の環境って、やっぱり変わってきているんですか?
【マスター】
変わってきていますね。特にウクライナの戦争が始まってから。あれで農薬や化学肥料の原料が一気に高騰したんです。原価が倍以上になっちゃっている。
【住職】
そんなにですか…。
【マスター】
でも、うちは無肥料でやっているから肥料や農薬にかかるコストはゼロ。でも、手間はかかりますよ。今のままでは、もし仮に肥料などの輸入が止まったらほとんどの農家はもう作れなくなる。そうなってからいきなり自然農をやろうと思っても、知識もない、経験もない。
【住職】
今まで肥料や農薬に頼ってきた分、いざというときの自立が難しい状況なんですね。
【マスター】
しかも、一番の問題は「種」なんですよ。日本で使われている野菜の種って95%が輸入なんです。パッケージの裏を見れば一目瞭然。全部外国、多くは中国産。
【住職】
そうだったんですか。それは、かなり怖いですね。
【マスター】
そう。中国がちょっとでも機嫌を損ねたら、「もう売らない」って言ってくる可能性だってある。
いまの世界情勢、何が起こるかわからない。武器の戦争だけじゃなくて、経済や流通の戦争となって起こりうる。
【住職】
日本人の多くがそこまでの危機感を持っていないと思います。
【マスター】
そうなんですよ。日本の食料自給率って38%って言われているけど、「種」のレベルで言えば10%程度。実際はもっと低いかもしれない。そこが止まったら、もう何も作れない。
【住職】
そんな中でも、「気づいた人」たちが少しずつ動き出しているようには感じます。
【マスター】
そう。実は意外とね、プロの農家じゃなくて素人が始めているんですよ。ちょっとずつ米作りに挑戦し始めている。いきなり「自給自足しろ」って言われてもできないでしょ?
だから準備している人は始めているんです。
【住職】
たしかに。物事を始めるのに一番大事なのは、まずは「やってみること」なんですよね。
【マスター】
もっと言うとね、今売られている種のほとんどが「F1種」って言って、一代限りしか育たないように設計されているんです。つまり、自家採種しても翌年は発芽しない。だから毎年種を買い続けなきゃいけない。
【住職】
えぇ…。それは完全にコントロールされていますね。
【マスター】
そうなんです。かつての「種子法」が廃止されたことで、国が守っていた公共の種が民間企業に流れて、今は完全にビジネスになっちゃっている。
【住職】
農業って、もっと自然と共にあるべきはずなのに…。
【マスター】
「日本は農薬の基準が世界一厳しい」なんて言われているけど、ウソですよ。年々、規制は緩くなっている。
中国産の野菜は危ないと言って買わないけど、実は国産の方が農薬の残留がひどかったなんて笑えない話もある。
【住職】
それはショックですね…。
【マスター】
「国産=安心」とは限らない。自分たちで作って、確かめて、育てていくしかない。そういう時代が来ているんだと思いますよ。
【住職】
本当にそうですね。今こうしてお話を聞いていて、世の中の情勢を自分事として受けとめ行動していくことが大切なんだと実感します。
【マスター】
さっき話した“奇跡のリンゴ”だけど、あの「奇跡」ってなにを意味しているのかというと、実は“腐らない”ってことなんです。
【住職】
腐らない、ですか。
【マスター】
うちでも実験したんですよ、自然栽培の米で。炊いたご飯を瓶に詰めて密封して、3種類――自然栽培・有機栽培・慣行栽培――それぞれ保存してみたんです。
で、数ヶ月放置してどう変化するか。
【住職】
結果にすごく興味があります。
【マスター】
一番ひどかったのは、意外にも「有機栽培」。カビがびっしりで腐敗して匂いもひどい。
「慣行栽培」は茶色くなって、ボンドみたいな化学的な匂い。
で、「自然栽培」はというと、なんと甘い香りで発酵していたんです。腐敗じゃなく、「発酵」。
【住職】
なるほど。自然界が導き出した結果がそれなんですね。
【マスター】
そう。木村さんのリンゴもね、腐らずにドライフルーツみたいになっていくの。だから“奇跡”なんです。
今はオーガニック信仰が強すぎて、それが“良いもの”だとみんな信じこんじゃっている。
【住職】
「有機」とか「オーガニック」とかって、どうしても言葉のイメージに引っ張られてしまいやすいですね。
【マスター】
今、オーガニック食品とかも増えているけど、実は有機でも肥料を使っていることが多い。私が出会った『究極の田んぼ』の本の内容も、耕さないけどミネラルとか海洋由来のものを入れていたんです。
でも、なぜか私は「何も入れない自然栽培」に惹かれたんだよね。不思議なんだけど。
【住職】
究極の自然界に行くように導かれていたんですね。
【マスター】
見てください、この野菜。色が薄いでしょう?
でも、これが本来の野菜の色なんです。
卵の黄身も濃いオレンジ色が“良い”って思われているけど、あれは餌で色を調整しているんです。
野菜も卵も、見た目が濃い=良い、っていうのは実は大間違いなんです。
【住職】
市場や流通がそれを求めている限り、作り手である農家はそれに合わせるしかない。
でもその市場や流通の根底にいるのは、真実とは異なるものを信じちゃっている私たち消費者ってことなんですね。
【マスター】
そう。だから教育が必要なんです。
メディアは真実とは逆のことを言うから、正しい情報は自分で取りにいかないと手に入らない。自己防衛するしかないんです。
【住職】
まさにそれですね。自分で情報を仕入れて自分で考えて判断する。でないと、守るべきものすら見失ってしまう。
【マスター】
でもね、それを言うと「陰謀論だ」って言う人たちもいる。でも、そんなの関係ない。
自分の身は自分で守るしかない。今の子どもたちのことを思うと、本当にかわいそうですよ。
【住職】
今の政治も政治家も、国民のために動いてるようには見えませんよね。政治家がひとつの「稼業」になってしまっているようで。
【マスター】
昔の軍人や指導者には「利他の精神」があった。今は自分たちの保身が最優先。
教育も戦後で大きく変わって、今じゃ指示待ちの人間ばかり。自分で考える力が育っていませんよね。
【住職】
まさに、ここで必要となるのが寺子屋の精神なんですね。
「考える力を育てる教育」、今の時代だからこその。
【マスター】
そう。だから、こういう世の中でも私は鮨を握って、田んぼをやって、こういう話を広めているんですよ。草の根でね。誰かが世の中を正気に戻させなきゃいけないから。
【住職】
「草莽崛起(そうもうくっき)」という言葉があります。吉田松陰の言葉で、民衆が立ち上がることを意味します。まさに今、その時なのかもしれません。
【マスター】
私たちひとりひとりがまず気づいて、動いて、伝えていかなきゃいけない。未来に希望を残すためにね。
【住職】
これからもよろしくお願いいたします。
本日はありがとうございました。
【マスター】
こちらこそ、ありがとうございました。
(完)
(監修/来迎寺住職、取材・編集/Communication Smoothie)
■広報担当(取材・執筆者)
来迎寺の広報活動のお手伝いをしているコミュニケーションスムージーです。広報業務(情報発信)代行業、広告・宣伝物のデザイン業を行っています。