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2024年01月02日(火曜日)
住職と来迎寺に縁のある方々と「人々の交流」をテーマに対談する企画記事です。 第2回目のお相手は、来迎寺の「今月の書」でおなじみの書道家「そうせつ」さんです。 お二人の出会いのきっかけや、現在の職業に就いたいきさつ、死を意識した人生観、書道の話、東庄町や香取市の未来から、対人関係を豊かにするコミュニケーション術など、自己探求が楽しくなるような哲学的な話が展開されました。 前編と後編の2回に分けてお届けします。
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<住職からそうせつさんへ> 1) 住職と書道家そうせつ氏。出会いのきっかけについて 2) 葬儀社で働き始めたいきさつは? 3) 葬儀という仕事に携わって変わった人生観 4) 書を見れば、人柄や、考えの深さがわかる 5) 葬儀の仕事をやっていることで「書」の表現や活動に影響はある? 6) 書道と展覧会についての話(表現の重要性) 7) 現在の、書の活動について 8) 書道家の活動と並行して、東庄町町議会議員選挙に立候補した経緯について
<住職> 来迎寺住職。日本スリランカ仏教センター蘭華寺理事長。 <そうせつ> 書道家。千葉県東庄町「有限会社二木屋 セレモニーホール愁彩苑」取締役。東庄町町議会議員。
【住職】 本日はよろしくお願いします。まずは、私とそうせつさんの出会いのきっかけについて改めて振り返りたいと思います。 【そうせつ】 はい、よろしくお願いします。 【住職】 5年以上前だと思いますが、お寺のホームページを自分で作っていて、ロゴタイトル を筆文字で作りたいと思ったんです。 私自身も書道をやっていたのですが、自分の字に自身がなかったので、どうしようかなと。 そんな中で、東庄町の葬儀社の愁彩苑さんに葬儀でお伺いしたときに、お清め(食事をする)ホールに、書作品がたくさん飾られていて気になったんです。 その作品がまた素晴らしく、線の美しさに惹かれました。私も書道を少しやっていたので、その辺は多少は分かるんです。空間に清らかな風が吹き抜けているような作品でした。
(写真左)そうせつ氏 (写真右)来迎寺住職
その後、愁彩苑さんのブログを拝見していたら、作者が愁彩苑スタッフであるそうせつさんであることが分かりました。それで愁彩苑さんに電話して、そうせつさんに取り次いでもらって、そうせつさんにお寺にお越しいただいてお話しをして、ロゴの制作をお願いしたという経緯ですね。 その後も、お寺のパンフレットの筆文字ロゴを書いていただいたり、愁彩苑さんの葬儀の仕事でもお世話になったりして、ご縁が深まり今に至っています。 【そうせつ】 書を飾っていて、見てくれる方はいるでしょうけど、声をかけてくれる人は意外と少ないんです。書について何か言うのは難しいし、よく分からないのに「うまい」とか言っちゃいけないんじゃないかとか、先入観があるのかもしれません。そんな中で、ご住職が率直に声をかけてくださったのはとても嬉しかったです。 【住職】 そう思ってくださったのはありがたいですね。 【そうせつ】 特に線の質など、書の肝を見てくれたのはうれしかったです。あまり身近に書に詳しい方がいませんので。お坊さんとのお付き合いも初めてで、葬儀の仕事ではスタッフとして関わりがありましたが、こうした形での交流は珍しいですね(笑)。 【住職】 そうですね。今では一緒に食事などにも行かせていただいたり、そういう間柄になるのは、なかなかありませんからね(笑)。 【そうせつ】 非常にありがたいご縁をいただいたと感じています。
【住職】 若い書家の方が、葬儀社さんのスタッフだったというのがまずびっくりしましたね。 そうせつさんが、葬儀社の二木屋さんに入ることになった経緯を教えていただけますか? 【そうせつ】 はい。私が葬儀社の二木屋に入ったのは20歳の頃でした。当初は、お盆や新盆のときに使う提灯に、戒名と家の名前を書く作業がありまして、それ以前は二木屋の会長が担当していました。実は、当時私のいとこが二木屋のスタッフとして働いていまして、いとこの紹介で私が提灯書きの仕事をするようになりました。そのまま二木屋の仕事に携わるようになり、現在は 11 年目に入ります。 【住職】 お盆の提灯書きがスタートだったんですね。 【そうせつ】 そうなんです。当時はまさかこんなに長く続くとは思っていなかったんです。だから、どういうところでご縁ができたり、きっかけになるか、わからないと感じています。
【住職】 二木屋さんで葬儀というお仕事に携わるようになって、何か人生観など影響したことはありますか? 【そうせつ】 自分が葬儀社に勤めるなんて、10代の頃はまったく考えていませんでした。ただ、小さい頃から「死」がいつか自分に関わるものだという意識がずっとありました。5歳や6歳くらいから、「死」は怖いなとか、自分もいつかは死ぬんだという感覚がありました。 年齢を重ねるごとに、毎日どこかで死ぬことを意識して生きていたんです。10代の頃はそれがちょっと嫌だったんですね。なんかやっぱり、怖いっていうのがありました。 ただ、書の道に進もうと思ったときから、「今日死ぬかもしれないから、好きなことをやって生きよう」とポジティブに考えるようになりました。その結果、自分にとって「死」というテーマが非常に重要で、亡くなっていく方や当家にサポートしながら携わっていく中で、「死」をこれまで以上に強く意識するようになりましたね。
【住職】 死は誰にでも訪れるものですからね。まして、葬儀の仕事に携わる中では、嫌でも死について考えざるを得ないですよね。 【そうせつ】 いつ死ぬか、タイミングは分からないわけですよね。なので、本当に1日1日を大切に生きることの大切さを、葬儀に携わっていて強く感じます。ただ、そうは言っても毎日全力で生きることがなかなかできないのは人間の弱さもあります(笑)。 【住職】 そうですよね。私も同じですよ。 毎日全力で生きることが大事だと分かっていても、なかなかできることではありませんね。 【そうせつ】 私はあまりストイックではないので、書なども楽しみながらやりたいと思っています。 毎日ノルマを決めて書き続けるような方法は自分に合わないので、その時の気分や自分の人間性が表れるような書ができたらいいなと思っています。
【住職】 初めてそうせつさんの書を拝見したときに、本当に素晴らしいと感じました。最初の印象からは、書の雰囲気から、なんとなく作者は年配の女性なのかな感じました。 【そうせつ】 よく言われます(笑)。まず、年齢は20か30歳くらい上に思われることが多いんです。私の面識がなく作品だけを見ていただいた方からは、50〜60代の書家の作品と思われがちで、男性か女性かに関しては、女性だと思われることが多いですね。 【住職】 そうせつさんの字は大変に力強いのですが、その中に繊細さも感じられるんですよね。 【そうせつ】 そう言っていただけると嬉しいのですが、多分、性格的にあまり派手なものは書けないというか(笑)。 【住職】 人柄が表れるんですよね。書の世界でも「書は人そのもの」だとよく言われています。 【そうせつ】 「書道」というのは誰でも知っている芸術です。ただ、実は今日も書のイベントがあったのですが、そこでいつも感じるのは、書道の中身を知っている人はあまり多くないなということなんです。 これはいつもご住職とお話していますが、書道界の方々が少し閉鎖的な傾向があるんですよね。身近な書や発信力も大事ですが、どうしても展覧会に焦点が当たりがちで、賞を取ったり、役職に就いたりすることが目的になってしまっている部分もあるように感じています。 【住職】 私もかつては書道団体で活動していたのでよく分かります。そんな中で、フリーで活動されているそうせつさんは、本当に貴重だし素晴らしいと思いま す。特定の書道団体に属していないのは、自由に書をやる上で大きな強みだと思います。 【そうせつ】 ありがとうございます。
【住職】 そうせつさんは書道をやられていますが、葬儀の仕事と二木屋さんの経営にも携わりながら活動されていますね。そういった葬儀の仕事の部分が、何か書に影響しているところはありますか? 【そうせつ】 そうですね。やはり書っていうのは、自分にとって言葉が中心であり、あまり形から入るものではないかなと。人間はいずれ必ず死ぬわけです。 そうすると、今生きているうちに、いかに幸せでいられるかということを考えるのは誰しもが共感できるところだと思います。その中で書がどう役に立つか考えると、やはり言葉が人生の支えになると感じています。 言葉も名言や格言がたくさん残っているので、それを借りることもありますが、自分の中で考えを巡らせ、短いながらも「そうせつらしいな」という言葉を見つけ出すことができたらと思っています。葬儀に携わることで、今の人生をどう楽しむか、どう幸せに生きるかということを深く考えるきっかけになったのかもしれません。 だから、年々言葉をどう見つけるか、どう使うかについても考え続けています。 ただ、言葉はいろんなことが言い尽くされているので、微妙な言い回しや句読点の使い方など、雰囲気に合った言葉を見つけることが難しいです。最近は、自分らしい雰囲気で、短くて分かりやすく心に響く言葉を考えることに挑戦しています。
【住職】 書道を鑑賞すると、確かに言葉も重要だと思いますけども。「いい言葉ですね」という感想をつい言ってしまったり、言われたりすることがよくありますよね。これはまったく書の感想になっていないという(笑)。書かれている言葉だけをほめるのは、「書の感想」ではないですよね。 でも、書の表現に言葉の意味をプラスすることが、書道の醍醐味になってくると思うのですが、いかがですか。 【そうせつ】 まさにそうだと思います。 そうなるとやはり、書道の漢字漢文で、自分の性格と言葉を一致させるのは今の自分では難しくて。話し言葉で日本語を使い、どんな人にでも読みやすい言葉で表現する方が、自然体で書くことができるので、自分らしさが出やすいかなと思っています。 私が販売している書のレプリカがあるのですが、それには短くてわかりやすく、響く言葉を考えていますね。 【住職】 書のレプリカの制作販売など、幅のある挑戦をしているのは素晴らしいことですね。現在、お寺に毎月飾る「今月の書」作品をお願いしていますが、とても言葉のチョイスが考えられているなと感じています。 【そうせつ】 ありがとうございます。 来迎寺さんの「今月の書」のほうでは、せっかくなのでできるだけ仏教に因んだ言葉を選んでいます。
【住職】 私がかつて書道団体にいて展覧会で制作していた書作品は、漢詩を材料にすることが多かったです。 正直なところ、詩や言葉の意味を考えることはあまりなかったですね。 とにかく、字だけをどう表現するかという点だけだったように思います。 【そうせつ】 確かに、展覧会はそうかもしれませんね。 【住職】 ただ、今思うとそれではあまり面白くないのかなとは思いますね。 漢詩を書くのであれば、詩の意味をしっかり理解した上でないといけないんだろうなと今は思います。 【そうせつ】 歴史に残る名品には漢詩や漢文がたくさんありますが、それは漢詩や漢文が読み書きできた時代の象徴なので、生き生きとしているんです。 なので、今の人が漢詩や漢文を理解せずに書いても、書としてどうなのかなと思いますね。
【住職】 現在のそうせつさんの書の活動はどのような感じですか?子供たちに指導されたりというのはお聞きしていますが。 【そうせつ】 はい。指導という言い方もできますが、私としては「伝える」という面を大切にしています。伝える方法は様々で、作品を見せて伝える場合もあれば、パフォーマンスやイベントで漢字の歴史や文字にまつわるエピソードを話すこともあります。 書道は一般的にはあまり注目されていない感覚があり、業界内で一生懸命に活動している人たちがいても、一般の人たちはその内容を理解していないことがあります。その結果、書としてはどうなのかというものが評価されたり、メディアやSNSでビジネスのために活動する人がいたりします。 【住職】 やはり現代では、書道もビジネスに取り込まれてしまっている部分があるのですね。
【そうせつ】 はい。そういうことを批判するのは良くないと思っていた時期もあるのですが、だけど、ちゃんと評価できる人が必要で、文化が良い形で残っていくためには必要だと、今はそう思っています。もちろん、自分も批判される覚悟で活動していますが、言わなければならないところではきちんと意見を述べるようにしています。 子供たちに関しては、最近では小学校で授業を行う機会があるのですが、学校教育の中で書写を十分に扱うことは難しいと感じています。 昔のようにきちんと字を書ける先生も少なく、教科書や電子黒板を使ってもスムーズに書けるようになるのは難しいです。 また、道具の管理も昔とは違って難しい状況です。子供に無理に書道に触れさせると、「書けないからつまらない」と感じる可能性があるため、この点にも気を配っています。 書くこと自体が減っているという現状もあります。書くことは頭が働くし、情緒が安定するといったメリットがあるので、それを伝えながらもっと書こうという文化を広めたいと思っています。 【住職】 日本人は、上手く書かないといけないという考えがどこかにあるんですよね。上手く書けないから書きたくないみたいになってしまったり。 【そうせつ】 はい。上手い下手ではなく、書くこと自体が大切なんだという意識を広めたいと思っています。 【住職】 いまの世の中をみていると、「美文字」が重要視されすぎていると感じますね。美文字文化が商業化されて、美文字講座などもよく見ますね。そういった美文字広告のキャッチフレーズだけが目に入ってしまって、表面的なことだけ広まってしまうんですよね。 【そうせつ】 みんなが美文字である必要はないし、そこにこだわる必要もないのですが。 そういう見方は、書に限らず、日本の文化全体が中身をおろそかにしてしまう傾向があるように感じます。
【住職】 少し話題を変えまして、議員さんの方の話も少し触れていきたいと思います。 そうせつさんは昨年(令和4年)の東庄町町議会議員の補欠選挙に立候補されて、当選され現在活動されています。政治に関心を持たれた経緯や、選挙への立候補に至った経緯を教えていただけますか? 【そうせつ】 はい。政治といえば、一般的には国の政治がテレビでよく見られますが、私もある程度その動きに興味を持っていました。 ご住職とも一緒に参加している勉強会などでも多くの刺激を受け、今はネットの時代なのでテレビ以外からも様々な情報が得られるようになりました。 これによって、日本が平和で住みやすい国だという一般的なイメージから一歩踏み込んで見てみると、実はいろいろな問題があることに気づきました。例えば、教育や国防、食など、あらゆる要素が結びついていることが分かり、日本の未来に危機感を抱くようになりました。 また、自分の住む東庄町を見ると、高齢者が40%を占め、人口も急速に減少している状況がありました。 また、お隣の香取市では、私たちと親交があり勉強仲間でもある前田誠之さん(現香取市議会議員)が時を同じくして香取市議会議員選挙に出馬されたことも大いに刺激になりました。 そんな中で、私は文化や芸術に携わってきた経験から、東庄町を文化的な面から変えていくことができるのではないかと考え、立候補したんです。二木屋で10年間仕事をしていたこともあり、皆さんに「そうせつ」という名前を知っていただけていました。皆さんのご支援をいただき、補欠選挙に当選させていただくことができました。 今はまだ一町議としての実力は十分ではありませんが、町の政治に興味を持ってもらうための呼びかけ役として、もし再選(※)することができれば、その4年間でさらに発展させたいと思っています。自分の得意な文化と芸術の分野から新たなアプローチをして、町を良くしていきたいと考えています。
(※)令和 5 年 11 月 19 日東庄町町議会議員一般選挙にて再選されました
【住職】 素晴らしいですね。ぜひ頑張っていただきたいと思います。 政策資料も拝見しましたが、いろいろなことを良くお考えになっているんだと感じました。慣習に縛られない新しいアプローチも必要ですね。若さも大事な要素です。地元の政治に新しい風を吹き込んでいただくことを期待しています。 【そうせつ】 ありがとうございます。 私は政治活動に関しては東庄町にじっくり腰を据えて完結させたいと思っています。 書道の活動なども通じて外部との連携を深めていければと思っています。
(後編へつづく)
(監修/来迎寺住職、取材・編集/Communication Smoothie)
■広報担当(取材・執筆者)
来迎寺の広報活動のお手伝いをしているコミュニケーションスムージーです。広報業務(情報発信)代行業、広告・宣伝物のデザイン業を行っています。