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2023年07月03日(月曜日)
(来迎寺本堂にて)
住職と来迎寺に縁のある方々と「人々の交流」をテーマに対談する企画記事です。 来迎寺のマインドフルネス瞑想教室で講師をしていただいているスリランカ人僧侶の「ヤタワラ・パンニャラーマ老師」との対談。後編は「仏教の教えは“時代や国によって変わらない普遍的な人生ガイド“である」や「経済と徳の関係」など、深いお話しがたくさん出てきました。 前編につづき、後編もどうぞお楽しみください。
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4) スリランカ人とお寺、生活様式。祝福の祈り 5) 仏教の教えは、2500 年前に村人からの悩み相談に答えた「解決策」集 6) 〜経済と徳の関係〜「徳を積む」ということは世界基準で行われている 7) 悩んでも解決しない問題には、マインドフルネス瞑想
<住職> 「来迎寺」住職。日本スリランカ仏教センター蘭華寺(千葉県香取市)理事長。 <ヤタワラ・パンニャラーマ老師> 日本・スリランカ仏教センター「蘭華寺(らんかじ)」僧侶。来迎寺「マインドフルネス瞑想教室」講師。スリランカのキャンディ出身。 ウェブサイト「気づきの瞑想~マインドフルネス~」運営 https://y-pannarama.com
【住職】 蘭華寺では、どのような生活を送っていらっしゃいますか? 【パンニャラーマ老師】 蘭華寺では、主にスリランカ現地のお寺で行われる活動を取り入れて行っています。100%の再現はできませんが、最近では在日スリランカ人はもちろん、日本人の方の参加も増えています。 【住職】 なるほど、基本的にはスリランカでのお寺の活動を、日本で行っているということですね。 【パンニャラーマ老師】 はい、とくに法事がメインです。 みさなんは法事と聞くと、日本の法事、つまり誰かが亡くなったときの儀式だと思うでしょう。 【住職】 何回忌などのことですね。 【パンニャラーマ老師】 そうです。 しかし、私たちが行う法事は、葬儀や年回忌法要などもありますが、先ほど話したように人生のいろいろなシーンで、例えば妊娠して子供が生まれる1週間か2週間前とか、8ヶ月のときとかに安産を祈願する特別な法事もあるんです。 そして、子供が生まれたらまずはお寺に連れて行きます。 普通のお寺だけでなく、スリランカでは仏舎利塔など、お釈迦さまのお墓がある場所などにも連れていきます。 そういうところに行って、子供はもちろん意味は分からなくても祝福を受けます。 【住職】 人生の様々なシーンの節目にお寺に行くというのは、やはり素晴らしいことだと思います。 日本では、「祝福の祈り」をお寺で行うということはまずありませんからね。 【パンニャラーマ老師】 はい、そうですね。
<対談はスリランカの紅茶を飲みながら>
【住職】 子どもが生まれたらすぐに行くんですか。 【パンニャラーマ老師】 ある程度外出できる時期になったら、お寺に連れて行くんです。 また、小学校に入る前にも行きます。そして小学校に入ってから、中学校入学前にも行きます。 今度は高校の受験がありますよね。その前にも行くのです。 【住職】 合格祈願のような意味もあるのでしょうか。祈願は日本のお寺でも行っているところはありますが。 【パンニャラーマ老師】 そうです。祈ります。 ただ、その時はみんなが祈りだけでは十分ではないことを必ず言います。 仏様のところへ行って、「これをください」とお願いするだけでは、自分自身は何もしないということになってまいますからね。 それが意味するところは、それぞれの人にとって、たとえば学生の場合、「どのように自分を努力させていくべきか」について学ぶこととか、「勉強を大切にすること」などについて、ブッタの教えに基づいて、お坊さんがお経が終わった後に話をします。 そして結婚する前にもお寺に訪れます。 結婚式や豪華な披露宴に参加することはあまりありませんが、お経を唱えて帰ってくるという感じです。 そして、夫婦生活を始める前にもお寺に訪れます。お経を称えると同時に、ブッダがどのように教えているかについてアドバイスを受けます。 夫婦生活はお互いに我慢することなどについてです。 【住職】 結婚生活を始める夫婦にいきなり「我慢の大切さ」を説くんですね(笑)。 たしかに、夫婦生活には大切なことではありますが、これがなかなか難しい(笑)。 【パンニャラーマ老師】 確かに、難しいことだと思います(笑)。 日本では、誰かからアドバイスを受ける機会があまりないように思います。 スリランカでは、お坊さんがブッダの話を通じて「こういう状況があったときには、仏教はこう教えています。私はこれからできる限り改善します」と言うのです。 それによって自分自身が安心することができるのです。 それだけ聞いただけでは改善されないので。 また、手術や入院する前にもお寺に行くことがあります。 【住職】 祈りの場ですね。 祈願は日本の神社ではよく行われています。スリランカのお寺は日本の神社のような役割も担っているように感じます。 【パンニャラーマ老師】 そうです。 病気の方の場合には、お坊さんは、ブッダも病気になったのだと教えます。 「ブッダも最後まで腰の痛みに悩まされていました。そしてお腹も調子が悪かったのです。しかし、心が強ければ体の苦痛をあまり感じません。だからブッダは知恵を得たのです。だから、あなたが病気のことを考え過ぎないようにしてください」と言われるのです。 【住職】 なるほど。ブッダの生涯のお話しも交えながら説くんですね。 【パンニャラーマ老師】 自分の病気は自分だけのものではないということも伝えられます。 「ブッダも病気になったから、 あなただけが治らないわけではありません。今は技術も進歩していますから、最も大切なのはあなたの心を穏やかにすることです。心がすべての中心となるのです」。 そういった教えを説くのです。 【住職】 はい。とても大切な視点だと思います。 【パンニャラーマ老師】 また、商売で失敗した人々がお寺を訪れることもあります。 仏教には八正道(はっしょうどう)という教えがありますが、世間には世間の法則も存在します。 株価が上がったり下がったり、楽しい時や苦しい時、評判の良い時や悪い時があります。 これらは宗教や経済社会とは関係なく、私たちが直面する普遍的なものなのです。 【住職】 仰るとおりですね。
<パンニャラーマ老師>
【住職】 私の場合といいますか、日本のお寺の立場としては、人生相談そのものを目的に来られた方はほとんどないですね。 檀家の方からちょっとした内容の相談というのはありますが、ほとんどの場合はお葬式や法事など仏事に関連する相談が中心ですね。 【パンニャラーマ老師】 私の場合ですと、例えば最近では、日本に住んでいるスリランカ人の家庭の子供の問題や旦那さんとのコミュニケ ーションの相談を聞くことがあります。 子供が言うことを聞かないとか、旦那さんがあまり話をしないとかです。 【住職】 なるほど、家庭の問題の相談ですね。 【パンニャラーマ老師】 そうです。このような相談内容は、現代だけのものではありません。 実は2,500年前のブッダの時代にも同じような相談がありました。 ですから、ブッダはさまざまな問題に対する解決策を教えたのです。 ブッダが「何年後にこうなるでしょう」と予言して言ったわけではなく、その場にいた人々からの質問に対して答えたのです。 何かの理由や結果に基づいて、ブッダが言ったことがすべて仏教になっているわけなんです。 【住職】 ブッダは単独で自ら語ったものだけではなく、人々に相談された内容に対して答えたものが仏教の教えになっているわけですね。 【パンニャラーマ老師】 そうです。それは神様のような存在に向けたものだけではなく、私たちの身近な問題や課題に対しての教えです。 人々の中で起きる様々な問題について、「これはどうすればいいですか?」という質問に対しての教えです。 ですから、ブッダの教えは8万4,000もあると言われています。 最近の若い人から、 「なぜこんなに多くの教えがあるのに、社会がこのような状態になってしまったのか?」 と聞かれることがあります。 【住職】 実にするどい質問ですね。
<来迎寺住職>
【パンニャラーマ老師】 やはり8万4,000もの教えがあっても、自分自身で調べなければ意味がありません。 なぜなら、人々は一人ひとり考え方や問題も異なるからです。 また、理解できる能力も人それぞれで異なります。それぞれの人に対して、ブッダは教えを説きました。 乞食にも説法し、お金持ちにも説法し、お医者さんにも説法し、さまざまな人々に教えを説いたのです。 【住職】 それが「対機説法(たいきせっぽう)」という言葉で表されていますね。 その人に応じた内容の説法を行うということです。 ですから、見た目では矛盾するような内容が出てくることもあります。 例えば、仕事をしすぎる人には「少し仕事を控えなさい」とか「体を大事にしなさい」と言うこともありますし、全く仕事をしないで怠けている人には「仕事を頑張り努力しなさい」と言うようなことですね。 【パンニャラーマ老師】 そうですね。 【住職】 つまり、ブッダはその人に合わせた内容の説法を行っていたのですね。 結果的にそれが今の膨大な経典の存在につながっているのだと解釈しています。 【パンニャラーマ老師】 教えはいろいろありますが、それらの内容をまとめると、三つの言葉で表現できますね。 それはパーリ語で「悪いことをしない」「善いことをする」「心を落ち着かせる」という意味です。 この三つが仏教の教えの根本なのです。 【住職】 仏教の教えは、どんな人にでも適用されますね。
【住職】 少し現代的な話で、あえて「経済」について触れてみたいと思います。 やはり豊かさを得るには徳を積むことが一番重要なのでしょうか。 【パンニャラーマ老師】 はい、やはりそれは世界的な基準ですね。 例えば、会社や商売を始めたときには、たくさん利益を得たり順調にいったいりすることがありますね。 それは、要するに自分が今まで積み上げた徳によって成功しているという見方ができます。 ですが、良い状況の中でも徳を積み上げていくことをしないと、やがて全ての徳が失われて商売がつぶれてしまうということがあります。 経済はこれまで発展し続けてきました。 でも、最近はその状況が変わってきました。 私たちはもう一度、徳を積み上げるということをしていかなくてはいけないと考えます。 運が悪いというのもそういうことです。 最近は手相判断などが流行していて、今はあなたの運が悪いと言われることがありますよね。 それは、今まで積んできた徳を少しずつ使い果たしているからなんです。 【住職】 まるで貯めてきたポイントがなくなるというような感じですね。 【パンニャラーマ老師】 そうそう、徳を分かりやすくいうとポイントですね(笑)。良い例えですね。 だから、ブッダはいつでも善いことを何かしなさいと言っているんです。毎日。
銀行に積み立ててあるお金も、使い続けるだけではなくなってしまいますよね。定期的に入れていかなくてはなりません。 【住職】 その通りです。 【パンニャラーマ老師】 それに引き出しても、また入れるんだったら、そのまま続けることができます。 【住職】 徳はだんだんなくなっていくのですね。だから、積み重ねないといけないと。 【パンニャラーマ老師】 そうです、またいいことをしなさいという教えです。 これはブッダがよく言っていることなのです。 私たちに起こっていることは、誰かのせいで起こっているのではなく、本当は自分自身の問題なんです。 「人を責める前に、まず自分自身を見つめなさい」という言葉があります。 本来、徳を積むというのは、自分自身が喜びを感じるからなんです。 徳を積む人は喜びを感じ、来世でも喜び続けると言われています。
【住職】 そうですね。たしかに、一般的に世の中で成功している人たちは、慈善事業や支援活動を行っていることが多いですよね。 経済的な戦略のうまさだけではなく、そういうところも成功につながっているのかもしれません。 【パンニャラーマ老師】 そうだと思います。 【住職】 お金があるから慈善事業などができるという見方もできますが、いや、むしろそういう行為をしているから成功しているんだと私は感じます。 【パンニャラーマ老師】 だからよく言われるんです。 「あの人は悪いことをしているのに、なぜか成功しているんだよね。 立派な家に住んでいたり、高級車に乗っていたり。」って言うんですけど、それはその人の徳がまだ残っているからなんです。 【住職】 うーん、なるほど。 【パンニャラーマ老師】 悪いことをしているけれど、以前積んだ徳が今も活かされているのです。 【住職】 そうなんですね。だからやっぱり、日常的に徳を積み重ねていかないとならないのですね。
<パンニャラーマ老師が「徳」についてお話をされているご自身の YouTube チャンネル>
蘭華寺瞑想会チャンネル「ワンポイントダンマ(5) 何度も善を行い、喜びを感じる」
【住職】 人はどうしても他人と比較して、妬んでしまったりしますよね。 「なんであの人がお金持ちなのか」「なんであの人が評価されているのか」とか。 たしかに、この世だけの視点で見てしまうとつり合わないように感じてしまうのですが、「過去世からの徳」という視点を持つことで納得できるかもしれません。 この世では、多少いい加減に生きているような人でも成功することがあるのは、それはその人が過去世からの徳を積んできたからなんですよね。それを今世で実を結んでいるということになるのかもしれません。 だから、私もなるべく徳を積んでいこう!と視点を変えることができれば、そんなに妬むこともないかもしれません。 【パンニャラーマ老師】 そうです。徳というのは、お寺にお布施するようなことだけではないんですよね。 誰かに道案内をすることだって徳なんです。本当の親切心があるからです。 【住職】 大げさに考える必要もないんですよね。 歩いている時に落ちているゴミを拾うとか。困っている人がいたら、ちょっと手助けするとか。 【パンニャラーマ老師】 そうですね。例えば、バス停で年配の方がいれば、少しバスに乗るのを手伝ってみたり。 【住職】 それも立派な徳ですよね。
【パンニャラーマ老師】 はい、自分が何も利益を求めずに何かをしてあげることは、徳になります。 【住職】 見返りを考えないことですね。 徳を積むというと、お坊さんのような修行をしないといけないイメージを持たれることがありますが、 そういうことをする必要はないんですよね。 【パンニャラーマ老師】 やっぱり、一般の日本人も、徳を積むというとお布施のことかなと思ってしまいますよね。 それは、お金のことだけを考えているからです。 【住職】 そうなんですよね。
【パンニャラーマ老師】 人間には四つの必需品があります。「食べ物、服、居場所、薬」です。 これを必要な人に提供することが大切なんです。 【住職】 これは一般の方が話されていたことなのですが、 「例えば、困っている人を助ける側の人は何も見返りを求めず行って、受け取る側の方々も感謝の気持ちで受け取るというのが大半だと思いますが、なかには、“自分たちは困っているのだから助けてもらうのは当たり前でしょ“と考える人もいて、そういう人に良い感情を持てない。だから人に何かを与えるのはあまりやりたくない。」ということをおっしゃられていたのですが、どう思われますか。 【パンニャラーマ老師】 その点が一番大切なところなんですよ。 仏教ではブッタが言うのは「与えた後は、相手がそれをどうするか、どう思うかは考えない方が良い」ということです。
【住職】 うーん、なかなか示唆のある話です。 【パンニャラーマ老師】 自分が「正しいことをした」と思えれば、それで「徳の行為」としては完結なんです。 【住職】 そうかもしれません。自分が良いと思ってしたことに対して相手がどう思うかというのは、「行為の尊さ」の上では関係ないことですよね。 【パンニャラーマ老師】 善意に対して相手がどう思うかは、その人次第です。 与えた後に「感謝の気持ちが見えない!」と怒るのは逆に良くないですね。 それは徳ではありません。せっかく行ったことに意味がなくなってしまいます。 【住職】 そうですね。徳の行為はそれ自体が尊いわけですから、受け手がどう思おうが尊さは変わりません。それは私も常々感じていたところです。 【パンニャラーマ老師】 ですから、例えばそれを受け取った人がそれを悪いことに利用するのであれば、その影響は悪いことをしたその人自身にあります。 【住職】 そこまで行ったら善意を与えた人にはもう関係ないですよね。 悪いことをした人は自らの徳を減らしていくので、ますます運が悪くなるでしょうね。 【パンニャラーマ老師】 はい。だから、そうした人はそれによって悪い方向に進んでしまうと思いますね。
【パンニャラーマ老師】 あとは、悩んでいる人が自分でできることとしては「マインドフルネス」が一番効果的だと思います。 問題について24時間考え続けても解決できないことがあるからです。 だから、 それを忘れる必要があります。 そのために、瞑想というものがあります。 【住職】 私もそのように受け取らせていただいています。 【パンニャラーマ老師】 瞑想とは、何か特定の行為に集中することです。 いろいろ考えないということです。 心は同時に二つ以上のことを考えることはできません。これを利用して特定の対象に向けることで、余計なことを考えないようにするんです。 この仕組みは、必ずしも瞑想だけのものではありません。 仕事でも通用します。今行っている仕事に集中することができれば、仕事をミスなく正確に行うことができるようになるんですね。 【住職】 そうですね。 【パンニャラーマ老師】 だから、それによって自分を良い方向に成長させていくことです。 皆さんが良く考えたり悩んだりするのは、過去のことだったり未来のことだったりします。 【住職】 はい、確かにそうですね。 【パンニャラーマ老師】 過去のことは過ぎてしまっているので、考えても意味がありません。
【住職】 未来もまだきていないわけですから、心配も不要ということですね。 【パンニャラーマ老師】 そうです。 ただ、「過去と未来は思い出さない、思い出さない」と言っても、なかなかできないから別のことに集中するんです。 マインドフルネス瞑想はそういうシステムです。 瞑想では、一番身近な自分の呼吸を観察します。 また、日常生活の中で何かをするときにも、これを応用していきます。 例えば紅茶を飲むときには、今自分が紅茶を飲むことに集中します。 次に、マインドフルネス瞑想を生活に取り入れるためには、仕事や趣味の前や、朝起きたときや夜寝る前など、5分とか10分とか少しの時間から始めるのが良いと思います。 毎日1時間瞑想をやろう!と思ってもなかなか続けられませんからね。 これが一番良い方法だと思います。 【住職】 来迎寺ではマインドフルネス瞑想教室を開催しています。 ぜひ皆さんも瞑想を実践していただきたいと思います。 本日は貴重な対談のお時間をいただきありがとうございました。 (終)
(監修/来迎寺住職、取材・編集/Communication Smoothie)
■広報担当(取材・執筆者)
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